先月『REALFORCE TYPING CHAMPIONSHIP 2025』が開催されて以来、いろいろなことを考えています。この映像からどのくらいのことを読み取れるのか。このような打鍵はどうしたら可能になるのか。トップタイパーの打鍵と、私の打鍵の違いは何なのか。
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それらの問いを突き詰めるため、私はRTCの映像のコマ送り分析をはじめました。
YouTubeにはいくつかのキーコマンドがあり、例えばJキーとLキーで10秒戻し・10秒送り、←キーと→キーで5秒戻し・5秒送りができます。それよりさらに細かく見たい場合、一時停止して,キーと.キーを押すことによって、フレーム単位のコマ送りをすることが可能になります。
この機能を用いて、選手たちの手元映像をじっくりと毎日見続けました。
当初私はゆたゆた選手のプレイに衝撃を受け、その打鍵の秘密を探るためにこの探求に手を付けました。だから観察する映像も、決勝のくわな選手との1セット目からはじめました。
ゆたゆた選手の打鍵は非常にパワフルであり、手の激しい上下動を伴いながら同時押しなどの高速な動作を決めていくところにその打鍵の秘訣がありそうだと考えました。
観察したことのメモ
けれどもそのうち、対戦相手であるくわな選手がゆたゆた選手とまったく別のスタイルで打鍵を行っていることもわかってきました。
くわな選手の打鍵は、とにかく動きが少ない。手首の回転なども活かしながら、最小限の動き、最短距離でキーを入れていきます。加速もミクロで無理に入れようとすることがなく、総じてスマートな打鍵をしている印象を受けます。
最適化もほとんど一切使用しない選手であるため、目を見張るような異様な打鍵が出ることはありません。しかしその動きで、1200kpm級の速度が求められる勝負を取りきっている。
そうなると次に、このような疑問が湧いてきます。「細かいスタイルがお互いまったく異なるトップタイパーたちに共通している特徴は何か」。
現状この問いに対して自分が出している結論は、「打鍵の隙間のなさ」です。
ゆたゆた選手は手の上下動が激しいと上で書きましたが、その手を大きく振り上げる箇所にはある程度の法則性があるように見えます。それは大まかに言えば、片手が2~3打鍵の動作をこなしているときです。
連打なり、片手交互なり、タイピングをしていれば片手でやや時間のかかる動作をこなさければならない瞬間はしばしばあります。そのわずかな間に手を振り上げていき、動作が終わった瞬間に"すぐ"振り下ろして次の動作の勢いを作っているのです。
指一本ずつによる交互押しが始まる場合は、この勢いづけを両手の指でしっかり行っていることもあります。とにかく不要な隙間を作らないように努めているのです。
自分が観察したワードのなかでこの真髄が現れているもののひとつが、決勝1セット目2ワード目の「ブリーフィングしたところワクワクする」(ゆたゆた選手1326kpm)です。

B→U→R→Iという流れでUからRにつないでいる場面。すべて人差し指の担当となるこの交互を、一本一本力を込めてしたたかに詰めていきます。

F→IN→G→Uに至るINを同時押ししているところ。左手はここで最高高度まで上がり、このあとすぐに強く振り下ろされます。
そして圧巻なのがつぎのSHITAの5打鍵です。

Sを押す。

ほとんど間を開けずに、HIを押し込む。

と思ったら、もう次の瞬間にはTAが着地している。恐るべき加速力というほかありません。
連続交互打鍵のような緩やかなペースの場面であっても、アルペジオが連続で来るような最高速の場面であっても、ゆたゆた選手はそれぞれに合ったやり方で隙間を詰め、平均秒速20打鍵級の速度を維持しているのです。
そしてこの隙間のなさは、当然相手のくわな選手も別の流儀で実現しています。
くわな選手の場合は、ゆたゆた選手ほど目立つアクションを決めるわけではありません。ブリーフィングのINの打鍵も、ゆたゆた選手がほぼ同時に押してガッと取っているのに対し、くわな選手はジャラッと時間差で押している。そうしたミクロな違いはありながらも、最短距離を狙いに行くスマートな指使いを進め、最終的にはゆたゆた選手と同じような速度を叩き出しています。きわめて無駄のない、洗練された打鍵がそこにはあります。
参考までに私自身の打鍵ログを見てみましょう。

これはparaphrohnさん協力のもと現在行っている実験のなかで取得したログの一部です。文章は初見文で、その場でランダム生成されています。
1200kpmを出すためには棒グラフの高さの平均が0.05秒より低くなる必要があるわけですが、この場での実際の平均打鍵間隔は約0.063秒、kpmに直すと946程度です。
この差もまた、打鍵の隙間を詰め切れているかどうかの差に由来しています。
自分の打鍵は非常に凸凹が激しく、散発的な加速と動作の停止が繰り返されています。手を止めてしまっている箇所が多すぎるのです。原因としては認識速度の調節、組立速度の遅さ、動作の不完全さなどが複合的に絡み合っていると思いますが、加速を突き詰めるだけでなく、この無駄をどれだけ削れるかどうかが自分とトップの違いを分けているのではないかと考えています。
計測に用いたツール『mede-typing』は諸事情で一般公開されていませんが、もし興味がある場合はparaphrohnさんもしくは私にご連絡ください。
最終的に実現すべき動作は明快です。
左手の動作が終わったとき、もう右手が入り込んでいる。
右手の動作が終わったとき、もう左手が入り込んでいる。
動作が連続的につながって一体となり、最後までよどみなく進んでいくその卓越した技術が、トップタイパーの必要十分条件でないかというのが、自分が観察を通して得た暫定的な結論です。
私もこのような打鍵がいずれ出来るようになりたいと思い、今いろいろな練習を試しています。