タイピングにおいて「最適化」というワードは、おもに2つの技術の複合概念として捉えられています。
ひとつは運指変更、すなわち標準運指をわざと崩して動かしやすい指使いに組み替えるテクニック。もうひとつは打ち分け、すなわち使用するローマ字そのものをワードによって臨機応変に変えるテクニックです。
しかし例えばたのん氏の記事のように、これらとは異なる第三の技術が「最適化」のワードのもとに言及されることもあります。
動作をスムーズに行う練習は、例えば「kou」をひと息に打つなどのいわゆるアルペジオ打鍵の速度を高めていくことが中心になります。
標準運指の変更や綴りの打ち分け、左右の打ち分けなどの運指の最適化とは異なる、いわゆる動作の最適化と呼ばれる練習です。
― 『タイピング上達論 ~競技タイピングを志したあなたに~』
ここで持ち出されている概念が、"動作最適化"です。特定の打鍵列に対する対応力を高めるため、その動作をひとまとまりの洗練されたものへと置き換えていく。指の動きのつながりに着目することで、打鍵を最適なものに近づけていくというのが、この概念の肝です。
ひろりんご氏による偉大な未完記事『Ringo最適化講座』も、実のところこの動作最適化に大きくフォーカスした内容となっています。
hiro5akaiito.web.fc2.com
というよりこのページにおいては、最適化の最終目標はもっぱら動作最適化(具体的には同時押し打鍵の実現)に集約されており、運指変更や打ち分けはあくまでその手段の一部であると捉えられている、と言ってもよいかもしれません。
例えばStep1の最初に出て来るoku987は、通常タイピング界において最適化と名指されることはありません。打ち方になんら変哲のない打鍵列であるためです。しかし「最適化とは動作最適化のことである」という立場によって書かれるこのページにおいては、この3文字は「ひとつのテクニック」として切り分けられ、名指される必然性があります。
(もっとも、通常の意味における「最適化」のすべてが同時押しというひとつの目的に集約されると言うことはできません。例えば同指連続を嫌って「うじ」をujiからuziに逃がすといった技術や、「った」の連打を早く入れるためにTを右で取るといった技術は、最高速の打鍵を生み出すという目的には寄与しませんが、最低速の打鍵を減らすという目的には寄与します。)
とはいえ、「同時押し」の概念が動作最適化の中心に置かれていることは間違いありません。
本記事ではそんな同時押し打鍵が実のところどのくらい速いのかを把握するため、自分をサンプルにさまざまな打鍵の定量的データを取っていこうと思います。
調査パート
今回は手始めに、タイピングにおける実質上の最小単位である3打鍵単位の動作を調べます。
この記事はミクロな打鍵に着目するため、便宜上kpmではなく打鍵と打鍵のあいだでかかった時間Tを基準として話を進めます。
具体的には、「打鍵Aと打鍵Bにかかった時間」をT(A-B)=0.xxxと表現します。単位は秒、小数第三位以下四捨五入です。
似たような計測を行っている先行例に、paraphrohn氏の『タイピングソフト別に打鍵ログを集計してみた』があります。
paraphrohn.hateblo.jp
この記事ではゲーム全体に対して分布をとり、種目間で打鍵の特徴を比較しています。長距離種目のタイプウェルでは0.060-0.079、安定力種目のe-typingでは0.040-0.059、高速種目の打トレとWTでは0.020-0.039が最頻値となっているようです。
今回の記事ではゲームではなく動作にフォーカスし、動きの種類ごとにその速度の量的感覚を掴んでいくこととなります。
Tとkpm値との関係は、おおよそ[kpm値]=60÷[T]です。
例えばずっと打鍵間の間隔が0.100秒であれば60秒で600打になる、すなわちT=0.100で600kpm相当と考えます(初打含まずの概算)。
表によれば、1000kpmを出したいなら平均を0.060に抑える必要がありますし、1200kpmを出したいなら平均0.050が求められます。
| 速度[kpm] | T[秒] |
| 200 | 0.300 |
| 400 | 0.150 |
| 600 | 0.100 |
| 800 | 0.075 |
| 1000 | 0.060 |
| 1200 | 0.050 |
| 1400 | 0.043 |
| 1600 | 0.038 |
| 1800 | 0.033 |
| 2000 | 0.030 |
| 2200 | 0.027 |
| 2400 | 0.025 |
| 2600 | 0.023 |
| 2800 | 0.021 |
| 3000 | 0.020 |
| 3200 | 0.019 |
| 3400 | 0.018 |
| 3600 | 0.017 |
| 3800 | 0.016 |
| 4000 | 0.015 |
| 4200 | 0.014 |
| 4400 | 0.014 |
| 4600 | 0.013 |
| 4800 | 0.013 |
| 5000 | 0.012 |
まんま反比例なのでkpm帯が上がるほどわずかな短縮でブレます。
調査方法:
W/Hさんの制作ツール『TypeDarker』を利用し、自分の打鍵間隔を測定する。
1回慣らし打鍵をしたあと、有効打鍵3回の平均を取る。

表記法:
ワード 指番号
T1(A-B)=AからBまでにかかった時間[秒]
T2(B-C)=BからCまでにかかった時間[秒]
……
※指番号:両手のそれぞれの指を示す番号。左手の小指を1とし、左手薬指/中指/人差し指/親指を2/3/4/5、右手の親指/人差し指/中指/薬指/小指を6/7/8/9/0とする。
以前自分が作った3打鍵分類法をベースにしつつ、カテゴリ別にいくつかのワードを打ちます。
1.1 片手3打鍵アルペジオ
右手3打鍵
OKU 987
T1(O-K)=0.015
T2(K-U)=0.022
OIU 987
T1(O-I)=0.018
T2(I-U)=0.015
POI 098
T1(P-O)=0.016
T2(O-I)=0.013
右手を固めて一気に叩きつけ、1ストロークで3打を入れる。タイピングにおける実質的な最速動作であり、この「同時押し打鍵の基準」が、そのまま打鍵感覚の下限を示す水準ということになります。
kuが微妙な押しづらさから少し妥協気味になってしまっていますが、今後の例を見ればわかる通りここを切り詰めることにあまり意味はありません。
左手3打鍵
WER 234
T1(W-E)=0.014
T2(E-R)=0.016
ASE 123
T1(A-S)=0.012
T2(S-E)=0.013
AER 134
T1(A-E)=0.016
T2(E-R)=0.017
左手。個人的にもっとも手に不自然な力がかからずに打てるASEが最速となりましたが、その他もきわめて高速です。
KUのような少し打ちづらい例を考慮するとしても、「理想的な同時押し打鍵はT<0.025に収まる打鍵である」と(私の打鍵において)暫定的に言うことができます。
1.2 片手3打鍵異指折り返し
右手3打鍵異指折り返し
OUI 978
T1(O-U)=0.038
T2(U-I)=0.059
IOU 897
T1(I-O)=0.025
T2(O-U)=0.092
KOU 897
T1(K-O)=0.022
T2(O-U)=0.076
総じてここのカテゴリは、2点同時押し→もう1打、という分解になりがちなのだとわかります。そして先ほどの基準に照らし合わせれば、OUIではOUが「同時押し」のレベルに達していません。IOやKOのような内→外の動きとの差でしょうか。
2打目から3打目に至るまでの時間は、打鍵順がひっくり返らないようにある程度意識的に余裕を持たせている時間になります。ただ2打目はきちんと打てていれば相当早く入るので、余裕を取りすぎている感じもします。
左手3打鍵異指折り返し
ARE 143
T1(A-R)=0.042
T2(R-E)=0.015
DEA 431
T1(D-E)=0.018
T2(E-A)=0.021
WAR 214
T1(W-A)=0.031
T2(A-R)=0.014
右手よりはスムーズな動きが多い感じがしますが、こちらも同時押し打鍵とそうでない打鍵が混在しています。DEAはほとんどアルペジオみたいなものなので無茶な同時押しが効きます。
同じ「A→R」の動作でも、力を入れづらいWAが前にあったり、あるいは力を入れやすいREが後に控えていたり、そうした前後との関係によって速度が変わっているのは示唆的です。
WARはWA/Rで脳内分割していたので、直観と反した結果が出ているのも面白いです。ふだんWAR-の動作は「WAを入れる」ことに意識を向けるとスムーズに行きやすいという体感があるのですが、それはWAが遅いからこそRとひっくり返らないように確実に入れるのがよい、ということだったのかもしれません。
1.3 3打鍵交互・交互亜種
右手3打鍵交互・交互亜種
OKO 989
T1(O-K)=0.032
T2(K-O)=0.110
MOM 797
T1(M-O)=0.034
T2(O-M)=0.085
HON 797
T1(H-O)=0.038
T2(O-N)=0.082
出ました。まず、同時押しできているといえる打鍵はありません。次に、切り返しに0.080以上かかっています。前者はいただけませんが、後者は同じキーの連打速度に限界があるのである程度仕方ないことではあります。「同キーを2度使用するとき、その間隔は一定以上短くできない」というのもまた原理として数えられるでしょう。
HONは純粋交互ではないので指の移動を伴うのですが、切り返しのなかでは最速で入っています。MOMとほぼ同じなので、人薬人という手首の回転が伝わりやすい位置関係が効いているのでしょう。
指の移動は減らした方がいいものの筆頭として扱われがちですが、このように他の要素が律速となってタイム上で完全に潰れることもそれなりにありそうです。
左手3打鍵交互・交互亜種
RAR 414
T1(R-A)=0.038
T2(A-R)=0.137
SAD 213
T1(S-A)=0.039
T2(A-D)=0.056
WAZ 212
T1(W-A)=0.034
T2(A-Z)=0.213
右と大体同じです。こちらも同時押しはできていません。
SADは純粋交互ではないので、同キー連打による原理的制限がなく、0.056とまずまずの間隔に収まっています。WAZは薬を思いっきり不自然に移動するのでまあそうだろうなという感じです。
1.4 同指連続混じり3打鍵
右手同指連続混じり3打鍵
KKU 887
T1(K-K)=0.096
T2(K-U)=0.036
OKI 988
T1(O-K)=0.018
T2(K-I)=0.037
KKの同鍵連打パートにやはり限度があり、KUもそれに引っ張られて同時押しの範囲を超えています。逆にKI88は同キー制限がないため、0.037という連打ではありえない打鍵間隔が実現できています。「最速の同指連続使用は最速の異指連続使用(<0.025)より悪く、最速の同鍵連続使用(>0.090?)より良い」のような仮説は立てられそうです。
なおOKIは普段978で最適化して打っているのですが、これを見るとタイム的にはわざわざそのようなリスキーな選択を取る必要はなさそうです(DOKIDOKIとかは最適化したほうが楽なので場合にもよりますが)。なおKI88が高速で入るのは私がパンタグラフキーボードを使用していることが大きく関係しており、そういったキーボードの特性も頭の片隅に入れるのがよいかもしれません。
左手同指連続混じり3打鍵
SSA 221
T1(S-S)=0.136
T2(S-A)=0.055
DDA 331
T1(D-D)=0.154
T2(D-A)=0.045
これはもう、わかりやすく連打の弊害が出ている例になります。SAとDAが同時押しできていないのもKKUと同じです。
強いていえばDAは中→小という流れに手首の回転が伝わりやすいからかSAよりも少し間隔が小さくなっています。
1.5 同指3連打
AAA 111
T1(A-A)=0.116
T2(A-A)=0.115
NNN 777
T1(N-N)=0.090
T2(N-N)=0.116
はい。流石に「純粋な連打が来る」とわかっていれば認識コストの削減のぶんssaのような場合より早く入れられますが、たかが知れています。私の技術では「同鍵連打の打鍵間隔の下限は0.090前後である」と言ってもよさそうです。
2.1 2打アルペジオ+1打
2打→1打
CAI 418
T1(C-A)=0.030
T2(A-I)=0.037
IBA 871
T1(I-B)=0.027
T2(B-A)=0.021
左左右と右右左。私は「2打+1打の構造は3打アルペジオの次に高速なカテゴリである」と経験的に認識しているのですが、実際にそのような結果が示されました。
もっとも、同時押し+交互という分かれ方にはなっておらず、「2打+1打の構造においてはふたつの打鍵間隔がなめらかに接近している」、というのは自分にとって非自明でした。あまり分割せずにひとつのまとまりとして認識するのがいいのかもしれません。
3打アルペジオはめったに登場しえない打鍵列であるため、実質的にはこのカテゴリは「頻繁に登場し、かつそのうちで最高速であるもの」といってよく、配列設計においても重要性を持つと思われます。
1打→2打
TOU 497
T1(T-O)=0.026
T2(O-U)=0.025
IRA 841
T1(I-R)=0.013
T2(R-A)=0.025
左右右と右左左。こちらも同様です。
先ほどのB→A 0.021もそうですが、「異なる手を用いた2打も隣接した打鍵の内容によっては同時押し打鍵の水準に入りうる」ことは覚えていてよい事実でしょう。より実力の高い人ならこのカテゴリのすべての打鍵を<0.025に収めることもできそうです。
2.2 片手同指2打+1打
SSI 228
T1(S-S)=0.112
T2(S-I)=0.055
KKA 881
T1(K-K)=0.087
T2(K-A)=0.023
AKI 188
T1(A-K)=0.066
T2(K-I)=0.094
左左右、右右左と、左右右のKI指移動。やはり連打が絡むと全体的に速度が大きく落ちます。連打パートの最短間隔は力が入りやすいKKの0.087。
OKIの場合は0.018→0.037と非常に高速だったのですが、こちらのKI88は遅くなっているようです。すべて右で打つ場合とは異なり両手の同期が必要になる3打なので、無意識に余裕を持たせているのかもしれません。
3.1 移動を伴わない交互
OCO 949
T1(O-C)=0.041
T2(C-O)=0.047
KAK 818
T1(K-A)=0.041
T2(A-K)=0.049
まずもって、「1打+1打+1打の交互は2打+1打構造と比べて明確に遅いが、それ以外よりは速い」ことがわかります。次に、「両手の純粋交互は(2打+1打構造と同じく)ふたつの打鍵間隔がなめらかに繋がっている」ことも見て取れます。
そして、いずれも3打通しての打鍵間隔が0.090程度であり、「同鍵連打2打と同鍵を挟んだ純粋交互3打は同じ時間で打てる」ことがわかります。連打の間になにかキーを挟んでもタイムは変わらないというわけです。
3.2 移動を伴う交互
SOR 294
T1(S-O)=0.068
T2(O-R)=0.041
KAN 817
T1(K-A)=0.039
T2(A-N)=0.065
認識等に気を使うぶん、純粋交互よりさらに遅くなりました。そのコストは一方の打鍵間隔にプラスされるため、2つの打鍵間隔のなめらかさも失われ、局所的なリズムが生じています。
タイパーが口を揃えて「交互は遅い」と経験的に語るゆえんがこの辺りの数字から垣間見えます。「交互打鍵は(単体で見れば)2-1分割や1-2分割の2倍近い時間がかかる、移動を伴うとさらにその1.2倍近い時間がかかる」というのが少なくともこの場において言えることです。たださすがに片手交互よりは速いです。
おまけ:繰り返し打鍵
ごく単純ながら少し長い打鍵についても計測します。いずれも12打で統一しています。
2-2交互
HUTAHUTAHUTA 784178417841
T1(H-U)=0.032
T2(U-T)=0.031
T3(T-A)=0.037
T4(A-H)=0.081
T5(H-U)=0.031
T6(U-T)=0.078
T7(T-A)=0.039
T8(A-H)=0.037
T9(H-U)=0.026
T10(U-T)=0.085
T11(T-A)=0.037
T(H-U)平均:0.030
T(U-T)平均:0.064
T(T-A)平均:0.038
T(A-H)平均:0.059
全体平均:0.047(1277kpm)
完全に、アルペジオ→アルペジオ間の移動に余分なコストをかけすぎています。
2打+1打構造が単体ではなめらかかつ<0.30であったことを考えると、すべての3打鍵成分が2打+1打構造で成り立っているこの打鍵も均等に均し、かつ短縮すべきだと考えられます。
KURAKURAKURA 874187418741
T1(K-U)=0.032
T2(U-R)=0.035
T3(R-A)=0.039
T4(A-K)=0.070
T5(K-U)=0.029
T6(U-R)=0.074
T7(R-A)=0.048
T8(A-K)=0.032
T9(K-U)=0.027
T10(U-R)=0.089
T11(R-A)=0.049
T(K-U)平均:0.029
T(U-R)平均:0.066
T(R-A)平均:0.045
T(A-K)平均:0.051
全体平均:0.048(1250kpm)
ワードを変えて調べたこちらも上とほぼ同じ結果です。
2-1交互
COUCOUCOUCOU 497497497497
T1(C-O)=0.049
T2(O-U)=0.027
T3(U-C)=0.092
T4(C-O)=0.067
T5(O-U)=0.035
T6(U-C)=0.078
T7(C-O)=0.068
T8(O-U)=0.034
T9(U-C)=0.082
T10(C-O)=0.065
T11(O-U)=0.026
T(C-O)平均:0.062
T(O-U)平均:0.031
T(U-C)平均:0.084
全体平均:0.057(1053kpm)
左→右右のパターンです。すべての3打鍵成分が2打+1打構造で成り立っているので上と同じ結果になってもよさそうですが、実際は区別する必要がありそうです。
上と同じく、区切りとなるCOU-COUのパーツ間で0.084と余分な休憩を置いてしまっています。またC-Oの移行も微妙に同期が取れていない感じはあります。
TAITAITAITAI 418418418418
T1(T-A)=0.036
T2(A-I)=0.056
T3(I-T)=0.117
T4(T-A)=0.049
T5(A-I)=0.068
T6(I-T)=0.126
T7(T-A)=0.052
T8(A-I)=0.035
T9(I-T)=0.134
T10(T-A)=0.041
T11(A-I)=0.040
T(T-A)平均:0.045
T(A-I)平均:0.050
T(I-T)平均:0.125
全体平均:0.069(870kpm)
左左→右のパターンです。なんとこのワードで1000kpmを割ってしまいました。
T-AとA-Iは(不十分ではあるが)それなりに短いので、やはりTAI-TAI間の移行の遅さが目を引きます。左左という動作の重さが無意識に安定性を求めさせるのでしょうか。
1-1交互
KAKAKAKAKAKA 818181818181
T1(K-A)=0.028
T2(A-K)=0.083
T3(K-A)=0.045
T4(A-K)=0.098
T5(K-A)=0.042
T6(A-K)=0.099
T7(K-A)=0.045
T8(A-K)=0.099
T9(K-A)=0.046
T10(A-K)=0.087
T11(K-A)=0.052
T(K-A)平均:0.043
T(A-K)平均:0.093
全体平均:0.066(909kpm)
均等になってもよさそうなものですが、純粋交互の連続でもこの傾向は変わりませんでした。なんと、このレベルの単純動作でも区切りによって時間を余分に食いつぶしているのです。
流石にこのワードになると(主観的には)わざわざ認識上で区切っている感覚はありません。パーツを意識レベルで区切っているからこうなるというより、人間の身体自体が繰り返し動作の安定のためにパーツ区切りを必要としている、といった方が正しいのかもしれません。
連打
JJJJJJJJJJJJ 777777777777
T1(J-J)=0.109
T2(J-J)=0.130
T3(J-J)=0.118
T4(J-J)=0.127
T5(J-J)=0.130
T6(J-J)=0.130
T7(J-J)=0.133
T8(J-J)=0.135
T9(J-J)=0.129
T10(J-J)=0.133
T11(J-J)=0.136
平均:0.128(469kpm)
FFFFFFFFFFFF 444444444444
T1(F-F)=0.113
T2(F-F)=0.130
T3(F-F)=0.149
T4(F-F)=0.141
T5(F-F)=0.147
T6(F-F)=0.140
T7(F-F)=0.139
T8(F-F)=0.155
T9(F-F)=0.146
T10(F-F)=0.152
T11(F-F)=0.158
平均:0.143(420kpm)
助けてください。
結論
ここまででわかったことを、最初のkpm対応表に書き入れてみましょう。これがそのまま、私個人の打鍵の特性ということになります。
| 速度[kpm] | T[秒] | 備考 |
| 200 | 0.300 | |
| 400 | 0.150 | (長時間の同鍵連打) |
| 600 | 0.100 | 同鍵連打 |
| 800 | 0.075 | 片手3打鍵の折り返し部分、(長時間の交互連打) |
| 1000 | 0.060 | (長時間の2-1繰り返し) |
| 1200 | 0.050 | 移動ありの単発交互、(長時間の2-2繰り返し) |
| 1400 | 0.043 | 純粋交互、動作に支障はないが少し余裕を持たせている打鍵 |
| 1600 | 0.038 | |
| 1800 | 0.033 | 2打+1打構造の単発打鍵はおおよそこれより速い |
| 2000 | 0.030 | |
| 2200 | 0.027 | |
| 2400 | 0.025 | いわゆる同時押し打鍵はおおよそこれより速い |
| 2600 | 0.023 | |
| 2800 | 0.021 | |
| 3000 | 0.020 | |
| 3200 | 0.019 | |
| 3400 | 0.018 | |
| 3600 | 0.017 | |
| 3800 | 0.016 | |
| 4000 | 0.015 | |
| 4200 | 0.014 | |
| 4400 | 0.014 | |
| 4600 | 0.013 | |
| 4800 | 0.013 | |
| 5000 | 0.012 |
1000kpmを安定させるのならば、2打+1打や純粋交互の動きを洗練させていくとともに、片手3打鍵の折り返しや移動あり単発交互といった比較的速度に難のある動作を動作最適化していくことが求められていくでしょう。余裕も削ってしまって動作的に問題ないものであれば削るべきです。
すでに同時押しできるものをそれ以上詰めるのは難しいでしょうが、同鍵連打はたとえばSSAのS-Sを切り詰めて0.100に近づけていくといった工夫がまだ有効です。
もちろん、今回のミクロな調査から得られるものはひとつの理想であり、適用できる範囲は限定的です。実際には長い文章を打った場合に生じる以下の要素もタイピング速度を考えるうえできわめて重要でしょう。
・打鍵を続けることによる体力的な減衰
・チャンク(認識上のまとまり)とチャンクの間に挟まる動作の無意識な断絶
・次のワードを認識するために余分にかかる時間
既存のタイピング理論としてよく知られた「認識・組立・動作」理論は、この要素を部分的・定性的に説明するものとして捉えられます。
いずれはそれらの要素も含めて定量的にタイピング全体を捉え、適切に上達計画を立てられるようなモデルの成立のとっかかりにできると嬉しいです。
追記
リプライでいただいた2ワードを計測します。
ずれた2-2打鍵
MAGOMAGOMAGO 714971497149
T1(M-A)=0.032
T2(A-G)=0.038
T3(G-O)=0.055
T4(O-M)=0.058
T5(M-A)=0.035
T6(A-G)=0.040
T7(G-O)=0.089
T8(O-M)=0.059
T9(M-A)=0.038
T10(A-G)=0.042
T11(G-O)=0.057
T(M-A)平均:0.035
T(A-G)平均:0.040
T(G-O)平均:0.067
T(O-M)平均:0.059
全体平均:0.049(1224kpm)
再掲1:HUTAHUTAHUTA
T(H-U)平均:0.030
T(U-T)平均:0.064
T(T-A)平均:0.038
T(A-H)平均:0.059
全体平均:0.047(1277kpm)
再掲2:KURAKURAKURA
T(K-U)平均:0.029
T(U-R)平均:0.066
T(R-A)平均:0.045
T(A-K)平均:0.051
全体平均:0.048(1250kpm)
文字の区切りタイミング(ま-ご)と手の入れ替えタイミングが分かれている例です。
他の2-2分割の例と比べると、総合タイムは変わらないものの、文字の区切りであるT(A-G)とT(O-M)が短くあり、手の入れ替えであるT(M-A)とT(G-O)は長くなっている、といえそうです。よりロスに寄与しているのは手の入れ替えである、と推察できる結果です。もっとも、文字の区切りとなるO-Mアルペジオも値で言えば0.059とそれなりに遅くはあります。
なお数値を追ってみると、2回目のT(G-O)がなぜか0.089とピンポイントで遅くなる傾向がみられました。比較的安定の難しい単語なので、O-Mに入るこのタイミングで自然と休憩を挟みたくなってしまうのかもしれません。
こうしてみると、同じ2-2分割のワードでも配置等によってだいぶ打鍵の様相は異なってきそうです。
移動交互
KAJSKAJSKAJS 817281728172
T1(K-A)=0.030
T2(A-J)=0.100
T3(J-S)=0.036
T4(S-K)=0.101
T5(K-A)=0.064
T6(A-J)=0.079
T7(J-S)=0.076
T8(S-K)=0.076
T9(K-A)=0.090
T10(A-J)=0.044
T11(J-S)=0.085
T(K-A)平均:0.061
T(A-J)平均:0.074
T(J-S)平均:0.065
T(S-K)平均:0.089
T(右→左)平均:0.063
T(左→右)平均:0.087
全体平均:0.071(845kpm)
再掲:KAKAKAKAKAKA
T1(K-A)=0.028
T2(A-K)=0.083
T3(K-A)=0.045
T4(A-K)=0.098
T5(K-A)=0.042
T6(A-K)=0.099
T7(K-A)=0.045
T8(A-K)=0.099
T9(K-A)=0.046
T10(A-K)=0.087
T11(K-A)=0.052
T(K-A)平均:0.043
T(A-K)平均:0.093
全体平均:0.066(909kpm)
指の移動がある交互打鍵ではどうなるか、という例です。
同時にこの文字列は、意味上の区切りをもたない列でもあります。ただ意識上ではさすがにKAJS|KAJS|KAJSのような区切りをしないと打てず、実際にT(S-K)は0.089と少し遅いです。
奇数番目が速く、偶数番目が遅い、という不均等なリズムの存在は概ねここでもあてはまります。ただ興味深いことに、今回は出だしにおいて間隔の長短の区別(0.030→0.100→0.030→0.100)がはっきり見られたものの、中盤でそれが溶解し、均等なペースへと混ざり合っている様子がみられます。

主観的にいえば、交互打鍵の間隔ムラは「速く連打したい」という思いが「右-左の打鍵の流れで勢いづける→次の勢いのためにふわっと力を抜く→ふたたび右-左の勢いをつける」という動作によって実行された結果生じるものだという感じがします。そうであるとすれば、打鍵列が複雑になっていき、頭が混乱してくると、決め打ちで思い切った力を入れるのが段々難しくなり、このように均等に近くなるのだ、と考えられるかもしれません。
2-1構造のパートでも触れましたが、間隔がそれ自体として短くなる/長くなるといった基準とは別に、周囲と比べて突出しているか/均されているかという観点も有用になる場面はありそうです。